インタビュアー： 本日は、京都市様における生成AI導入事例についてお話を伺いたいと思います。まず、AI導入のきっかけについてお聞かせください。

延原様： デジタルを活用した事務効率化を進めていく必要があったことが大きなきっかけです。令和５年の４・５月頃から具体的に検討を始め、８月と１１月に実証実験を行いました。その結果、活用の効果が期待でき、対象者からも継続利用の要望が多かったため、翌年の正式導入を検討するに至りました。

インタビュアー： 実証実験はどのように進められたのでしょうか？

原様： まず、３０名規模の若手DXコミュニティのメンバーで検証を実施しました。具体的には、文章生成や校正、コーディングといった用途で試行しました。次に、本市の政策決定等を担う部署で５００名規模の検証を実施し、さらに様々な用途で活用できることを確認しました。

インタビュアー： その後、本格導入に至るわけですね。選定にあたって重視されたポイントはありますか？

原様： 価格とRAGの拡張性を重視しました。予算（９月から翌年３月までで１０００万円）内に収まるかどうか、そして庁内のマニュアルや規程に対して回答を生成するBotのようなサービス（RAG）の拡張性が重要だと考えました。

インタビュアー： 導入にあたって懸念点はありましたか？

原様： セキュリティ面、具体的には再学習によって情報が漏洩しないかという点と、著作権について懸念がありました。セキュリティに関しては、サテライトAIにより、生成AIに情報が再学習されないことを確認しており、安心して利用できています。著作権については、国での整理等も踏まえながらルールを整備し、利用を開始しています。

インタビュアー： 実際に導入されてみて、どのような機能をメインで利用されていますか？

原様： AIボードとAIドキュメントをメインで利用しています。AIボードは一般的な生成AIに複数のLLMが搭載されており、AIドキュメントはRAGの機能を利用しています。

インタビュアー： 具体的な活用事例はありますか？

原様： 文章の作成・校正、コーディング、翻訳など、通常想定される使い方のほか、例えば、中国人名の読み方を調べる、医療関係の職種の職員が薬品の情報を調べるなど、思わぬ使い方にもつながっています。また、庁内のマニュアルのチャットボット化など、RAGの活用も広がっています。

インタビュアー： 導入の効果はいかがでしょうか？

原様： 導入から３ヶ月後にアンケートを実施したところ、定期的に利用している者のうち９５％以上が継続利用を希望しており、高い評価を得ています。RAGについては、回答元のドキュメントを表示してくれるため、回答精度が高く、内容を確認できる点も良いです。

インタビュアー： 導入を進める中で苦労された点はありましたか？

中川様： サテライトオフィス・池田さんのお力を借りることができたため、特に大きな苦労はありませんでしたが、強いて挙げるとすれば、ログイン方式をどうするかという点です。これはサテライトオフィスさんの助言もありSSOでクリアしました。また、登録したプロンプトがどのような場面で利用できるかという点が分かりにくいという声もありました。

インタビュアー： 利用者の反応はいかがですか？

原様： 浸透してきているという実感はあります。延べ２０００名と全体の３分の１にあたる職員が利用しており、利用率は３０％程度なので、世の中の平均と比較した場合、決して低くはないと感じています。しかし、どのようなシーンで利用したらよいかイメージがわかないという方もまだまだいるため、利用者の底上げを図っていきたいです。

インタビュアー： ネガティブな反応はありましたか？

原様： AIに対して不信感を持つ職員や、希望する回答が出てこなかったという声がありました。希望する回答が出てこない場合は、プロンプトのスキル、使い方に問題がある可能性もあるため、デジ室で職場を訪問して利用方法のレクチャーも行うなど、草の根の活動もしています。また、サテライト・池田さんや京都市政策推進アドバイザー（松倉さん）からのアドバイス・研修も随時実施しています。

インタビュアー： ハルシネーション対策や著作権についてはどのように対応されていますか？

中川様： ハルシネーション対策としては、職員による生成された内容の確認を徹底しています。生成物を外部へ利用する場合は、著作権についても必ず確認を行うこととしています。

インタビュアー： 今後の展開について教えてください。

原様： 今後も職員向けの資料作成や研修を継続していきます。また、職場訪問によるレクチャーといった地道な活動も重要だと考えています。誰かが隣で利用しているのを見ることで、使うきっかけになるのではないかと期待しています。

延原様：次年度からは、より本格的なDX人材の育成研修も検討しており、生成AIもカリキュラムの一つとして予定しています。生成AI利用が、職員のDXスキル向上のきっかけになればと考えています。

インタビュアー： 市民向けの展開は考えていますか？

原様： サテライトAIを使っての市民向けの展開は、現時点では想定していません。市民向けは別途検討していく予定です。

インタビュアー： 今後、AI導入を検討する企業や自治体へのアドバイスはありますか？

原様： セキュリティ、職員の使いやすさ、職員向けの学習コンテンツが重要です。実際に触ってみないと分からないため、全検討業者に対してトライアルの実施は必須だと思います。また、職員研修においては、いきなり高い目標を掲げるのではなく、日常業務の改善から着目し、地道に積み上げていくイメージが良いと思います。

中川様： 利用者は何もしないと利用率が下がっていく傾向があるため、新しい機能や便利な機能を随時案内・周知していくことが重要です。早めに着手し、職員への普及を大切にし、共に育てていくという意識が大切だと思います。

インタビュアー： 他の自治体との情報交換はされていますか？

原様： 頻繁に情報交換を行っており、他の自治体が視察に来られたこともあります。全職員にAIを付与している自治体は少ない印象を受けているため、京都市は先進的な取り組みをしていると言えるかもしれません。

※インタビューは、サテライトオフィス様の事例内容から、京都市様・サテライトオフィス様の許可をとって再掲しております